
THE IDOLM@STER ©NBGI/PROJECT iM@S
第13話に、春香が持っていた酸素缶を落とし、駆け寄って拾い上げる場面がある。
ちょっと思わせぶりなこのシーンを、シリーズ終盤の展開とも合わせて考察しよう。
※全編視聴済み前提。ネタバレ含む。

象徴的なもの
舞台袖に急ぐ春香が手に持っていた酸素缶を落とし、それを拾うというワンカット。
技術的には、美希に酸素缶を持って行ったのは春香だ、と強調する役目を果たしている。
持っているものを印象づける方法として、“落とす”という芝居もしばしば使われる。
あるいは、落ち着いているように見える春香も、他のメンバーと同様に慌てている様子を
あらわそうとしているのかもしれない。
しかし普段からドジっ子の春香が、モノを落としたくらいで慌てていることを表現するのは弱い。
あたふたした表情ではなく、決意を秘めたような顔なのも気になる。
春香はふたつの缶を持っているが、その後の楽屋のシーンでは
既に美希に渡すひとつしか手にしていない。
(もうひとつの缶は舞台袖に置いてきたと考えられる)
ストーリー的には、ふたつ持っていた意味は特にないようだ。
いずれにせよ前後の流れから見ても必須のシーンとは言えず、唐突にも見える。
この場面には何か意味があるのだろうか。

春香の手から離れたもの
缶のひとつは舞台袖に置き、もうひとつは美希に渡したという点から、
落とさなかった缶は765プロのメンバーを、そして落とした缶は美希を、
それぞれ象徴していると仮定したらどうだろう。
春香が支えてきたメンバーたち、そして12話で春香の力の及ばない所へ去ってしまった美希。
落とした缶を真剣な表情で拾う春香は、「美希を忘れていない」という決意にも読める。
楽屋で酸素缶を手渡された美希は、我に返ったようにアイドルを続けていく決意を語る。
酸素缶は、美希に冷静さを取り戻させた。
これはプロデューサーの説得や13話のライブが、美希のアイドルへの情熱を
取り戻させたことに似ている。
手から落としたと言う動きに加えて、落とした“もの”自体も、状況を象徴しているのだ。
春香の手から離れた“もの”は、春香の手の届かない場所へ去ってしまった人や
コントロールできない状況を象徴している──そう考えられる。

春香がなにかを落としたときは、誰かを失いつつあるとき
13話で春香が落とした酸素缶は「もうやる気が無くなった」と去った美希の象徴だった。
同じように解釈できるのは、実は今回だけではない。
20話のシーンを振り返る。

部屋を訪ねた春香の足元に転がった缶。
すでに春香の手の届かない場所へ去ってしまった人がいる事をあらわしている。
落としたもの自体も、“彼女”への思いが詰まった紙袋だった。
そして最後に落としたもの
春香がその手から落としたものは、春香が失ないかけているもの、もうコントロールできない
状況の象徴──これに沿えば、23話の急展開にも意味が生まれる。
有名になった代償として、ついにはアイドルである自分自身までも見失ってしまう春香。
この時もやはりアイドルとしての春香と不可分の、大切なものを落とした。
春香がこの時、その手から落としてしまった“もの”が何だったか、覚えていることだろう。

このように、春香の手から離れたものは、去って行った人や、
どうすることもできない状況の象徴になっている。
落とす立場のその先へ
映画でも、やはり春香には解決の難しい難題が降りかかる。
これまでとの違いは、765プロ自身が起こした問題ではない点で、
その問題をフォローしないという選択肢も提示される。
しかし春香は助けることを諦めず、“彼女”に手を差し伸べ続け、関わろうとした。
春香はもはや落とす側ではなく、拾う立場になったのだ。

落としたものは去って行った人や、自分ではコントロールできない状況をあらわしている。
去って行った“彼女”を象徴するのが「お菓子」であり、それを拾えたのは春香だけ。
このシーンに展開の全てが凝縮されているのがわかる。
(アニメ曜日)
2015.07.01 水曜日
作品別