
『バッグスバニーの“ニッポン人をやっつけろ”』 Bugs Bunny Nips The Nips 1944年
ひとたび戦争が始まると、あらゆる社会的資源が戦争のために費やされます。
第二次世界大戦中、ワーナー、ディズニーといったアメリカの大手アニメスタジオも、
その制作能力を戦意高揚の宣伝映画に注ぎました。
ワーナーは特別に制作する戦争宣伝映画だけでなく、自社の人気キャラクターのひとつ
“バッグスバニー”を用いて、より効果的な短編映画をカラーで製作しました。
1944年公開『バッグスバニーの“ニッポン人をやっつけろ”』(Bugs Bunny Nips The Nips)は
日本との激戦が続いていた太平洋戦線を題材にした短編アニメ。
もとより子ども向けとは言えないバッグスバニーですが、
この短編では太平洋の島で日本兵と戦争するハメになります。
戦後ワーナーはこの作品を公開停止にし、現在では放送することはもちろん
作品集にも収録されず、リストからも消されて完全にお蔵入り。
また今回調査したところ日本国内には文献もなく完全に無名作品という
状態であったため、日本語の手掛かりとして記事にしました。
戦時中のワーナーによる宣伝映画として、国内では『トーキョー・ジョーキョー』が
わずかに知られた存在ですが、この『ニッポン人をやっつけろ』は
より娯楽的な要素がある作品。
実際の映像、そのストーリー、海外の反応をまとめました。
海外の反応はアメリカの映画サイトIMDbなどに投稿されたレビューの抄訳です。
(ここまでの解説通り、攻撃的な表現を含む作品であることに注意)

Reviewアニメ曜日
“
映像
Nips The Nips snapoleone
1944年アメリカ カラー 8分
ほかの動画サイトにあるクリップ
dailymotion.com
dailymotion.com
dailymotion.com
spike.com
liveleak.com
popmodal.com
ストーリー
太平洋のどこかを漂流するバッグスバニー。
ふと気がつくと待望の島が見える!
で、上陸してみたらなんとも平和で綺麗な南の島。
なんてウットリしていたら、突然大砲の弾が飛んできた!


あわてて飛び込んだ藁の山には、なんと先客の日本兵。
「どったの?」
なんて呑気にしていると斬られてしまう!
穴の中に逃げ込んだ。
日本兵は爆弾を持ってきたが、そのままお返しします。


ドカン!
怒って叩き切られそうになったら、
エンペラー・ヒロヒトの格好をするだけでこの通り。
変装名人のバックスに、日本兵はすっかり騙される。


…なんてわけはなく、ワーナーのバックスバニーくらいわかるよバカヤロ。
カメラ目線。
隙をみて逃走するバックス。飛行機で追いかける日本兵。
しかし2機目の飛行機は、椰子の木に結んでおいたのさ。


落ちてくる日本兵に爆弾をプレゼント。「ご機嫌よう!」
下の方でドカン。バッグスの勝利。
勝利を祝っているところへ、スモウレスラーが現れて
あっと言う間にねじり倒されちゃった。


そこで女装だ。美しいゲイシャになって油断させる作戦。
ゲイシャ・バッグスの勝利。
一難去ってまた一難。
今度は輸送船で日本の兵隊が山ほど上陸してきた。
考えに考えて、バッグスが閃いたのは!


アイス屋さんに変装。
ただしアイスの中身は手榴弾。


予想通り日本兵がたくさん買いに来た。
「はいよモンキー顔!」「ジャップ!」「スラントアイ!」「お待たせ四つ足め!」
言葉が通じないのをいいことに、笑顔で罵詈雑言を吐くバッグス。
あっちのほうでドカンドカン。アイス作戦大成功。
ところが追いかけてくる兵隊がいるじゃないか。しまった、失敗か?


なんとアタリが出たのでもう一本!
あんたラッキーだね、特別に2本あげちゃう。
ドカン!やれやれ全部片づいた。
これで平和な島が戻ったぞ…。
いやいや違う、こんな事しにきたわけじゃない。
退屈な島なんて嫌いだ!なんて言って暴れてたら…


味方の戦艦が見える!
助かった、連れて帰ってくれよ!
ここだよここ!目印の旗を揚げて救助を頼もう!
ちなみにこの旗、よく見るとさっき着ていた白いシャツ。芸が細かい。


ところが気づいてもらえず行ってしまった。腹を立てるバックス。
「おいおい、ここで死ぬまで過ごせって言うのか?」
ふと、向こうを見ると魅力的な南国娘(ウサギ)が
「それもありかもネ」なんて色っぽく誘ってる!


おっとこれは放っておけないぞ、ちょっと待ってよキミ!
目印の旗なんかさっさと下ろして、彼女を追いかけていくバッグスであった……。
そしてお馴染みの
“おしまい!”(That's all Folks!)で完。


海外の反応
────nogen アメリカ
私たちは適切・不適切という名前のもとに、都合の悪いものをカーペットの下へ
さっと隠してしまう傾向にある。この作品がまさにそうだ。
日本軍の兵隊は『ミスター・モト』のようなビン底眼鏡を掛け、
悪意を持って描かれているのはハッキリしている。
現代では考えられないことだが、当時私たちはこのような表現で
外国人を攻撃していたという事実を教えてくれる。
『ニッポン人をやっつけろ』が制作された当時、アメリカは日本と戦争状態にあった。
もしこのアニメを学校の授業で使い、その背景や戦争状況下ではどのように
偏見が宣伝されていくのかを検討すれば、教育的価値が少なからずあるのではないか。
────nogen アメリカ
公開されたのはアメリカと日本が戦火を交えていた時代。
このアニメに出てくる極端なステレオタイプは、その時代の空気を表しています。
倉庫にしまい込んで紛失を待っているような状態は望ましくありません。
短編としては良くできているので、一見をお勧めします。
────nogen アメリカ
たしか廃盤になったバッグスバニーとダフィー・ダックの短編集に収録されていた。
偏見的なのを脇に置いておくとすれば、わりと面白い内容だ。
アイス売りで兵隊たちをペテンにかける場面がよく考えられているよ。
まさか“アタリつき”だったとはね!
────nogen アメリカ
検閲は必要ないが、その文脈というか、時代についての注意書きは必要だ。
実際のところバッグスバニーのシリーズにはDVDに収録できなくなった短編が他にもある。
子供にとって暴力的などという理由でね。
しかし、そもそもバッグスバニーは子ども向けかどうか怪しいわけで…。
ワーナーはこの短編を公開するべきだ。時代背景を理解する手がかりになるだろう。
────nogen アメリカ
『バッグスバニーの“ニッポン人をやっつけろ”』は1944年のアニメ。
つまり第二次世界大戦の最中です。
出てくる日本人はひどく偏見に満ちていますね。
不適切な表現(その定義はともかく)が山ほどあるのは事実ですが、
放送禁止にする意味があるとは思えません。
簡単なことで、冒頭に「おことわり」を入れておけばいいのではありませんか。
フィルムを隠しておくよりよほど合理的。
ただし、子供たちがテレビで観るのであれば
このアニメの背景にあるものを知っておく必要があります。
────nogen オランダ
人種的偏見をあおるという意見は尤もだが、そこは時代を考える必要がある。
しかし宣伝映画としてあまりいい出来ではない。
もっと完成度の高い宣伝映画も幾つかあるからね。
────nogen アメリカ
『トーキョー・ジョーキョー』は白黒の映画だったが、
この『ニッポン人をやっつけろ』はカラー映画だ。
南の島に漂着したバッグスが日本兵と戦うハメになる。
バッグスのコスプレが可笑しいね。
エンペラー・ヒロヒト(昭和天皇)になったかと思ったら、ゲイシャ(芸者)にもなる。
大挙して押し寄せる敵をおかしなアイデアで倒すのは、コメディーの面目躍如といえる。
偏見たっぷりに描かれている日本人、という点を除外すれば悪くないアニメ。
とくに『トーキョー・ジョーキョー』と比較したらね。
出てくる日本人が一応“知性的”に表現されているだけマシだ。
アートワークも十分なクォリティー。
付け加えるならば、当時日本側でも制作されたであろう宣伝映画に興味がある。
おそらくワーナーに対抗して、反米国的なステレオタイプが沢山盛り込まれていたのでは。
────nogen アメリカ
確かに枢軸側(日独伊)の宣伝映画がアメリカをどう描いたか、それは知りたいですね。
知っているところでは、日本の軍部は『アボットとコステロ』を兵隊たちに見せて
アメリカ人は皆こんなにバカだぞ、と教育したこともあったようです。
────nogen アメリカ
アートには時代背景や文脈といったものが必ずある。
戦争というのはこれ以上ないくらいの社会的背景だ。
おそらく第二次世界大戦に参戦した全ての国が、このようなアニメや映画を作ったことだろう。
敵国を嘲笑い、貶めるのは有効な宣伝だったのかもしれない。
今、日本人に対してこのような偏見を持っているものは居ないだろうが、
当時はあたかもこれが日本人の真実であるかのように広まっていった。
────nogen アメリカ
日本の人々にとっては面白くないことに違いないが、可笑しいコメディーだよ。
繰り返しになるけれど、アメリカと日本は戦争中だった。
さらに言えば、現代だって何処かの国と戦争状態になれば、
その国に対してまたこういう映画が作られるだろう。
────nogen アメリカ
二通りの観方ができますね。
ひとつは非常に人種的偏見を助長するアニメという面。
日本人は最大限悪く(眼鏡に悪い歯並び、奇妙な行動)描かれていて、
バッグスのセリフもひどく攻撃的ですからね。
もうひとつは時代を反映した資料という面。
戦争中、兵士やホームフロントの士気を高めるためにこのような宣伝映画が量産されました。
ワーナーの意向は分かりませんが、確かにこのアニメは子供に相応しくはありません。
しかし大人向けとなれば話は別で、ビジネスという意味でも支障はない筈です。
ワーナーのアニメ、あるいは『ルーニーテューンズ』を蒐集している人は多いですから。
────nogen フランス
ワーナー・ブラザーズは常に日本人をサルか何かの様に描いてきた。
このバッグスバニーもワーナーが作った反日本的アニメのひとつ、つまり価値のないものだ。
『トーキョー・ジョーキョー』『トーキョー・ウォーズ』よりは若干マシなのは、
少なくとも人間として描かれていて、バッグスのまともな敵役になっている事くらいだね。
────nogen アメリカ
バッグスと言えば、何はなくても女装のようだね。
最高傑作の女装は『オペラ座の狩人』だと思うけれど、このアニメではやはりゲイシャ。
私の義理の父が太平洋戦線の退役軍人なんだ。
このフィルムで、その頃の空気に少しだけ接することが出来たよ。
”
『Bugs Bunny Nips the Nips』
ニップ(Nip)は噛みつく、つまむ、挟むなどの意味。
また“Nippon”から日本人のこと。こちらは攻撃的な言葉。
タイトルはこの二つを合わせた洒落になっている。
「日本人をパチンとする」イメージ。
日本未公開のため、公式の邦題は存在しない。
ミスター・モト
小説が原作の実写スパイ映画シリーズ(英:Mr.Moto)
戦前の1937年からアメリカで製作された、日本人の国際諜報員モトが主人公のシリーズ。
丸い眼鏡に猫背、揉み手に愛想笑いでカタコト英語というステレオタイプな日本人を演じつつ、
実は4カ国語が流暢、ここぞのときに頭脳は冴えて格闘にも強いという男。
主演はピーター・ローレ。
その後日米情勢の悪化とともに人気を失い、シリーズは終了する。
『ミスター・モト“最後の警告”』(1939年)
評価が高いシリーズ6作目。
舞台はエジプト。来航するフランス艦隊をイギリス軍の仕業に見せかけて爆破し、
“第二次世界大戦”の勃発をもくろむ地下組織があった。
国際警察のモトとその部下が監視につくが、目を欺くためモトを名乗っていた部下が
組織に殺されてしまう。
やがて組織内に潜入済みのイギリス人諜報員の存在が分かり、
モトは彼と接触して爆破計画を阻止しようと奮闘する。
部下を演じているのは日系俳優のテル・シマダ。(『007は二度死ぬ』の大里)
モノクロ、70分、字幕なし。
参考:冒頭は諜報員からの情報を受けたイギリス司令部の様子。
船のシーンの女性と少女はフランス提督の家族。探検ヘルメットに眼鏡の男は
地下組織の人間に使い走りをさせれているオッチョコチョイ。東洋人はモトのふりをしている部下。
7分頃にぶつかる眼鏡の男が主人公のモト。月十字と3回ノックは地下組織内の秘密の合図。
楽屋で組織の人間がめくる手帳は、組織が殺害する予定の諜報員リスト。
その部屋でモトが話し掛ける髭の男が、潜入していたイギリスの諜報員。
肩から斜めにベルトをしている老年の軍人はイギリス軍の将軍。
『トーキョー・ジョーキョー』
ワーナー制作の戦時宣伝アニメ。1943年。(英:Tokio Jokio)
敵(日本)から奪ったニュースフィルムという設定。
敵国日本は見せ掛けだけで、最新兵器と称するガラクタばかり、
生活の知恵はお粗末、指導者は間抜けばかり…という内容。
題名は“東京の状況”と東條(英機)を掛けたものか。
内容の半分くらいは駄洒落。
ワーナーのアニメはタイトル直前にWBマークのクレジットが入るが、
そのフォーマットがはじめて採用されたのがこの作品といわれる。
モノクロ、7分。(※攻撃的表現を含む)
『トーキョー・ウォーズ』
ワーナー制作の戦時宣伝アニメ。1945年。(英:Tokyo Woes)
日本側の実在の謀略放送『トーキョー・ローズ』に戦費国債を
(文字通り)使って反撃する水兵の話。
題名はトーキョー・ローズを捩ったもので“トーキョーの悲劇”
といったニュアンスになる。
アメリカ海軍の教育用に制作された短編アニメのひとつ。
フィルムは90年代になって発見された。モノクロ、4分。(※攻撃的表現を含む)
『アボットとコステロ』
アメリカの喜劇コンビの名前。(英:Abbott & Costello)
1940年代から舞台や映画で人気になったドタバタ喜劇。
戦後の1950年代にはテレビ番組も制作された。
ホームフロント
国民が戦闘以外のことで戦争に賛同し支える行為。(英:Home front)
増産、戦意高揚、戦費国債の購入、密告、節約、防災など。
「ここは後方ではなく前線」と危機感を煽るため盛んに宣伝された。
日本では同様の意味で“銃後(じゅうご)”という言葉が使われていた。
『オペラ座の狩人』
バッグスバニー主演のアニメ。1957年。(英:What's Opera, Doc?)
ワーグナーのオペラ『ニーベルングの指環』を下敷きにした短編。
バッグスが女装して演じるのはもちろんブリュンヒルデ。
1992年、歴史的価値からアメリカ国立フィルム登録簿に登録。
日本語吹替がある作品。7分。
その他の脚注
『ルーニーテューンズ』 [恋愛ラボ 海外の感想#02「恥ずかしがり屋とクールと変態?」の脚注欄]
「スラントアイ」 [きんいろモザイク 海外の感想 Ep3「どんなトモダチできるかな」の脚注欄]
2013.08.07 水曜日
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